青色えのぐ


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ミルキーウェイ(みるきーうぇい)6

片手にケーキ箱、もう片手に救急箱というなんとも調和のない私の格好。せめてどちらかを氷室が分担してくれれば見た目の異様さも半減するのではないか、と淡い期待を抱いてみたが、氷室には「荷物もちは荷物をもっていればいいのよ」と一蹴されてしまった。

さいですか。

いっそ捨てようともしたけれど(もちろん救急箱をだ)、せっかく買ったのだから勿体ない気がしてならず、現状のとおり続いている。

こういったものは日頃から備えておくべきで、いざ必要なときに見当たらないのでは意味がないから。そう自分に言い聞かせて居心地の悪さを我慢。

相変わらずふらふらしている氷室と言葉すくなに歩いていると、ようやく雪割荘が見えてきた。えらく長い旅路だったように思えてうっかり感動しそうになった。

だけれども。

……あれ、と一瞬、違和感を覚える。

なんだろう、と、おかしな点を探す。

漠然とした不安が、胸を染めてゆく。

雪割荘はわりと珍しい構造だ。二階の四部屋は密集しておりそれを囲う匚(はこ)の字の廊下、その横線ふたつに扉がついている背中合わせの造り。構造のしわ寄せだろうか二画めが外気に晒されていた。

私の部屋は雪割荘の敷地の外からでも見える位置にあり、

 

外出時には施錠を確認したはずの204号室の扉が、半開きになっていた。

 

「おい、――なんだよ、それ」

あり得ない。何より、信じられない。

だとしても、疑いようのない事実だ。

私の部屋に鍵がかかっていたのは確実。勝手にひらくわけは断じてなく、蒼が内側からあけたとも考えられないから、必然導き出される結論、――侵入者がいる!

「あっ……ぐっ、」

そして侵入者がいるということは、蒼の身に危険が及んでいる可能性が、無視できない。

「――くそっ」

急激に心拍が上昇する。喉がからからに渇いて、背筋に氷塊をぶち込まれたような感覚。

「氷室さん、すみません、これお願いします!」

喋る間さえ惜しく、もつれる舌がもどかしい。はやく。急いで蒼のもとへ向かわないと。

「あ、ちょっ、どうし――」

有無を言わさず氷室に荷物を押しつけるのとほぼ同時、私は弾かれたように駆けだした。

誰だ。いったい誰がなんの目的で。

私の部屋は外から見える位置にはあるが、内を通れば最も遠い位置にある。だから、忍び込む者には明確な目的があるはずだ。いや、単に空き巣が外壁を登ってたどり着いたという考え方もあるが……。

雪割荘はすぐそこに見えているのにどれだけ地を蹴っても近づいている気がせず、焦燥感ばかりがつのる。

それでもやがて雪割荘にたどりつくと、鍵のあいてる開放自由な玄関の戸を乱暴に引いてくぐり、土足のままで二階に駆けあがる。

階段でつまずいて脛を打ったり、目測を誤って柱に肘をぶつけたりしながら、私は204号室の扉に手をかけた。


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